話を元に戻します。株式会社アーバン・コーポレイションのように会社が黒字倒産してしまうのは単なる「勘定あって銭足らず」だからではありません。前述のとおりその程度じゃ会社は倒産しません。
株式会社アーバン・コーポレイションの事例が黒字倒産の典型例のような事例なので株式会社アーバン・コーポレイションを例にあげますが、株式会社アーバン・コーポレイションは倒産事業年度を除き、直近5年間くらい損益計算書上はずっと黒字となっていました。
しかし、営業キャッシュフローが直近5年間ずっと大幅にマイナスとなっていました。
つまり利益は出ているもののキャッシュフロー上はマイナス状態だったということです。
なぜこういった逆転現象が起こるのか?それは損益計算書の利益は費用収益対応の原則により、売上高に対応する仕入在庫だけが売上原価として費用計上される仕組みだからです。
棚卸資産は販売されない限り費用にならない
販売用の土地を仕入れた場合を例にとって考えてみます。その仕入れた土地が売れれば損益計算書に売上原価として費用計上されますが、売れない限りは永久に費用計上されることはありません。
しかしキャッシュフロー上は売れていても売れていなくてもその土地を購入するために支払った現金相当額が営業キャッシュフローの減少となります。
過剰在庫が最大の原因
株式会社アーバン・コーポレイションが黒字倒産するまでの流れは、次の通りです。
- まず市況の悪化等により好調だった販売に行き詰まりが出てきた
- しかし用地仕入はこれまでどおり継続
- その結果売れていないのに在庫だけが増える結果となり過剰在庫になった
- 過剰在庫によって資金が滞留し慢性的な運転資本不足に陥った
- しかし決算上は黒字だったため銀行から融資を受けることはできたため銀行融資でなんとか資金繰りをつけていた
- その結果有利子負債がどんどん膨らんでしまった
- 銀行からは追加融資を渋られ事業継続不可能に
- 黒字決算だったものの資金繰りが完全に行き詰まり倒産(黒字倒産)
倒産には2種類ある
これはただの参考ですが、倒産の手続きには私的整理と法的整理があり、なお倒産には清算型と再建型があります。清算ということは完全に会社を畳んで全てを清算してしまうことで再建とは一時的に会社を締めますがその後再建を目指すことをいいます。再建型倒産で有名なのはJALですね。
株式会社アーバン・コーポレイションの財務データ
最後に、株式会社アーバン・コーポレイションは20年8月に倒産していますが、有価証券報告書から抜粋した直前4期の財務データ(100万円単位)は次のとおりです。
この中でも特筆すべきは営業キャッシュフローのマイナスと私が計算した棚卸資産回転期間です。
不動産業は通常の小売業より棚卸資産回転期間が長くなる傾向があるのは普通ですがそれでも40日ぐらいが平均です。それに対して株式会社アーバン・コーポレイションの棚卸資産回転期間は20年3月期はなんと655日超と天文学的数字になっています。
この数字の意味するところは、仕入れた商品が販売されるまでに2年近い歳月を要していたということです。過剰在庫が資金繰りを相当圧迫していたであろうことは容易に想像がつきます。
≪損益計算書≫ | H17/3 | H18/3 | H19/3 | H20/3 |
売上高 | 57,033 | 64,349 | 180,543 | 243,685 |
経常利益 | 9,479 | 10,677 | 56,398 | 61,677 |
→損益計算書だけを見ると年々売上高と経常利益が増加しており順調のように見えます。
≪貸借対照表≫ | H17/3 | H18/3 | H19/3 | H20/3 |
棚卸資産 | 34,536 | 73,733 | 293,001 | 437,778 |
流動資産 | 90,472 | 164,937 | 397,761 | 556,301 |
流動負債 | 38,448 | 98,921 | 201,646 | 248,473 |
総資産 | 120,550 | 202,990 | 443,304 | 602,566 |
純資産 | 35,455 | 66,638 | 103,111 | 131,517 |
→しかし貸借対照表も見てみると棚卸資産(在庫)がありえないスピードで増加していることが分かります。
≪キャッシュフロー計算書≫ | H17/3 | H18/3 | H19/3 | H20/3 |
営業キャッシュフロー | △24,955 | △32,991 | △55,033 | △100,019 |
投資キャッシュフロー | △6,603 | 1,078 | △9,063 | △11,100 |
財務キャッシュフロー | 40,233 | 43,043 | 88,210 | 89,212 |
→最後にキャッシュフロー計算書を見てみると営業キャッシュフローが大赤字になっており4年前の時点から資金繰りがとんでもない状態であったことが容易に想像されます。
≪財務分析指標≫ | H17/3 | H18/3 | H19/3 | H20/3 |
棚卸資産回転期間 | 221.0 | 418.2 | 592.3 | 655.7 |
→在庫回転期間を計算してみると、過剰在庫金額が天文学的数字になっています。